2022.12.07 (更新日:2022.12.12)
【博多駅テレビフィルム提出命令事件】十分尊重に値するとは?
(最大決昭44.11.26)
司法によりテレビフィルム提出命令が争われた事件で、どこまで突っぱねられるかの根性試しになった事件。
今回の事件は、通常の判例と異なり、裁判所の命令を断る事から発生した「抗告事件」です。
抗告事件とは?
判決以外の裁判について、高等裁判所にその裁判に対して不服を申し立てる簡易な上訴手続で、法律が特に定めている場合に限り申し立てることができます。
1.登場人物
抗告側:RKB毎日放送他3社
相手方:裁判所
2.事件詳細
この事件は、裁判所の命令から始まります。
裁判所の命令
特別公務員暴行陵虐等付審判請求事件に関する取材フイルム提出命令事件
- 1969年8月28日(昭和44年)
- 【提出命令】
福岡地方裁判所
【当事者】
RKB毎日放送・九州朝日放送・テレビ西日本・日本放送協会福岡送放局
裁判所は、博多駅事件(学生運動で、学生が警察から暴行を受けた事件)の際に、警察の学生への暴行シーンをテレビ局がその瞬間をカメラで撮影していたと思うので、裁判資料として提出を要求したところ、表現の自由を理由にテレビ局側が断った為、裁判所が直接提出命令を下すという運びとなった。
博多駅事件では、警察が口裏を揃えて学生への暴行を否定したので、付審判制度により学生弁護側による不服申し立てが行われた。
付審判制度(ふしんぱんせいど)とは?
日本における刑事訴訟手続の一つ。公務員職権濫用罪などについて告訴又は告発した者が、検察官による不起訴等の処分に不服がある場合、裁判所に対して、審判に付することを請求すること。準起訴手続ともいう。
裁判長:テレビ局さん。博多事件の警察怪しいから暴行シーンが映ってるテレビフィルム見せなさい。
抗告側の主張
テレビ局:待て待て待て。なんで裁判所にそんなこと命令されなければならんのだ。取材の自由が脅かされる。そんなことしてたら誰も取材に応じなくなるじゃないか。
テレビ局:表現の自由がある。取材の自由も表現の自由で保障されるべき。テレビフィルムは提出しないぞ。
テレビ局側は、裁判所の提出命令を拒否。強制執行を免れる為、抗告裁判を始める。
テレビフィルムを提出すると損をすると思ったんでしょうね。例えるなら、鬼ごっこの強い子供が、先生からみんなの前で勝ち方のコツを聞かれて、それを教えたら勝てなくなるじゃないか。と突っぱねた感じですかね。
博多駅テレビフィルム提出命令事件開幕
提出命令に対する特別抗告事件
- 1969年9月18日(昭和44年)
- 【特別抗告審決定】
最高裁判所第一小法廷
【抗告申立人】
アール・ケー・ビー毎日放送株式会社 外3名
【結果】
敗訴
【主文】
本件抗告を棄却する。
フイルム提出命令に対する抗告事件
- 1969年9月20日(昭和44年)
- 【抗告審決定】
福岡高等裁判所
【抗告人】金子秀三(RKB毎日放送株式会社代表取締役社長)外3名
【結果】
敗訴
【主文】
本件抗告を棄却する。
なんとテレビ局側が敗訴。
そして、最高裁へ。
取材フイルム提出命令に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
- 1969年11月26日(昭和44年)
- 【特別抗告審決定】
最高裁判所大法廷
【抗告申立人】アール・ケー・ビー毎日放送株式会社 外3名
【結果】
敗訴
【主文】
本件抗告を棄却する。
完全敗訴。テレビフィルム提出へ。
【結論】
1、裁判官の結論
裁判長:報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。報道機関の報道が正しい内容をもつためには、取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする。
以上のことから裁判長は、本件フィルム提出命令事件は、憲法21条に違反するものではないと結論づけた。
最高裁判決のその後
やっぱりテレビフィルムを提出しない、いや提出しろの応酬があったが、、、
- 1970年12月8日
- 福岡地方裁判所は、裁判上の全ての決着がついた後にコピーをとった上でテレビフィルムを放送4社にそれぞれ返還したが、さらにコピーについても同月10日に焼却処分することが決定・連絡された。
3.博多駅事件
- 1968年(昭和43年)1月16日早朝
- 原子力空母エンタープライズの佐世保寄港阻止闘争に参加する途中、博多駅に下車した全学連学生に対し、待機していた機動隊、鉄道公安職員は駅構内から排除するとともに、検問と所持品検査を行った。警察の検問と所持品検査に抵抗した学生4人が公務執行妨害罪で逮捕され、内1人が起訴された。
- 1969年(昭和44年)4月11日
- 福岡地裁はに「警察の過剰警備」などを理由に無罪判決を出した。
- 1970年(昭和45年)10月30日
- 福岡高等裁判所においてもに一審判決が支持され、無罪が確定した。
4.まとめと例題
関連条文
point
試験に出てくる論点
尊重に値するが、権利として保障されているわけではない。
レペタ訴訟の、筆記行為の自由は「尊重されるべき」
今回の、取材の自由は「十分尊重に値する」
報道の自由は「権利として保障されている」
3つの言い回しの違いを理解したいと思います。
- 例題
報道の自由も取材の自由も、憲法21条の表現の自由のもと、保障されている。
-
×
報道の自由は保障されている。しかし、取材の自由は、憲法21条の精神に照らし尊重に値するとされているが、保障されているわけではない。
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