行政行為の瑕疵に関する次のア~オの記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア.ある行政行為が違法である場合、仮にそれが別の行政行為として法の要件を満たしていたとしても、これを後者の行為として扱うことは、新たな行政行為を行うに等しいから当然に許されない。
イ.普通地方公共団体の長に対する解職請求を可とする投票結果が無効とされたとしても、前任の長の解職が有効であることを前提として、当該解職が無効とされるまでの間になされた後任の長の行政処分は、当然に無効となるものではない。
ウ.複数の行政行為が段階的な決定として行われる場合、先行行為が違法であるとして、後行行為の取消訴訟において先行行為の当該違法を理由に取消しの請求を認めることは、先行行為に対する取消訴訟の出訴期間の趣旨を没却することになるので許されることはない。
エ.行政行為の瑕疵を理由とする取消しのうち、取消訴訟や行政上の不服申立てによる争訟取消しの場合は、当該行政行為は行為時当初に遡って効力を失うが、職権取消しの場合は、遡って効力を失うことはない。
オ.更正処分における理由の提示(理由附記)に不備の違法があり、審査請求を行った後、これに対する裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、理由の提示にかかる当該不備の瑕疵は治癒されない。
令和5年問8 行政法 行政総論
ア. 行政行為の違法行為の転換
この選択肢は、ある行政行為が違法である場合、それが別の行政行為として法の要件を満たしていたとしても、このを後者の行為として扱うことは新たな行政行為を行うに等しく、当然に許されない、と述べています。しかし、実際には「違法行為の転換」の概念があり、ある行政行為が本来の目的に対して違法であっても、それが別の法的根拠に基づく行政行為として適法であるとみなされる場合があります。このため、アは妥当でないとされます。
イ.妥当である
普通地方公共団体の長に対する解職請求を可とする投票結果が無効とされても、前任の長の解職が有効であることを前提に、その解職が無効とされるまでの間に行われた後任の長の行政処分は無効とならないという最高裁判所の判例(最大判昭和35年12月7日)により、行政処分の安定性と連続性を保持する法理が確立されています。
ウ. 先行行為と後行行為の関係
ウの選択肢は、複数の行政行為が段階的に決定される場合、先行行為が違法であっても、後行行為の取消しを請求することは、先行行為に対する取消し請求の出訴期間の趣旨を没却することになるため許されない、と述べています。しかし、最高裁判所の判例によれば、後行行為の取消し訴訟において、先行行為の違法性を理由にして取消しを求めることが可能な場合があります(「違法性の承継」)。つまり、先行行為の違法性が後行行為の取消しの根拠となり得るため、ウは妥当でないとされます。
エ. 行政行為の瑕疵と取消しの効果
エは、取消し訴訟や行政上の不服申立てによる争訟取消しの場合、当該行政行為は行為時当初に遡って効力を失うが、職権取消しの場合は、遡って効力を失うことはないと述べています。しかし、実際には職権取消しも含め、行政行為の取消しは、その効果が原則として遡及し、行政行為が最初から存在しなかったかのように扱われることが多いです。これは、行政行為が原始的瑕疵を理由に取消された場合、その効果は行為時に遡及するという最高裁の判断に基づきます。したがって、エも妥当でないとされます。
オ.妥当である
更正処分における理由の提示に不備がある場合、その不備は審査請求を行い、それに対する裁決で処分の具体的根拠が明らかにされたとしても治癒されないとされた最高裁判所の判例(最判昭和47年12月5日)により、処分に対する理由の明確な提示が行政手続の基本的要求であることが強調されています。