令和5年-問3 憲法 総論

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問題

基本的人権の間接的、付随的な制約についての最高裁判所の判決に関する次のア~エの記述のうち、妥当なものの組合せはどれか。

ア.選挙における戸別訪問の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、それは戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。 

イ.芸術的価値のある文学作品について、そこに含まれる性描写が通常人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することを理由に、その頒布が処罰される場合、そこでの芸術的表現の自由への制約は、わいせつ物の規制に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。 

ウ.裁判官が「積極的に政治運動をすること」の禁止が、意見表明そのものの制約ではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして行われる場合、そこでの意見表明の自由の制約は、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない。 

エ.刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限が、被収容者の知ることのできる思想内容そのものの制約ではなく、施設内の規律・秩序の維持をねらいとして行われる場合、そこでの制約は、施設管理上必要な処置に伴う間接的、付随的な制約にすぎない。 

令和5年-問3 憲法 総論

妥当なものはア、ウである。

基本的人権の間接的、付随的な制約に関する最高裁判所の判決を理解するには、まず基本的人権とは何か、そしてそれがどのように間接的、付随的に制約され得るのかを把握することが重要です。

基本的人権とは

基本的人権は、憲法によって保障される個人の自由や権利のことです。これには、言論の自由、集会の自由、信教の自由などが含まれます。これらの権利は、民主社会の基礎を形成するものであり、国による不当な介入や制限から保護されるべきものです。

間接的、付随的な制約とは

間接的、付随的な制約とは、特定の政策や措置が直接的には基本的人権を制限するものではないが、その結果として人権の行使に影響を及ぼす場合に生じる制約のことです。つまり、主要な目的は他にあるが、その過程で基本的人権がある程度影響を受ける場合がこれに該当します。

具体例で理解する

ア. 選挙における戸別訪問の禁止

要約

目的:選挙期間中の戸別訪問を禁止することで、プライバシーの保護や選挙運動の公平性を確保する。

間接的制約:この禁止措置は、直接的には言論の自由を制限するものではないが、選挙運動の方法に一定の制約を加えることにより、間接的に表現の自由に影響を及ぼす。

選挙における戸別訪問の禁止に関する最高裁判所の判決をわかりやすく説明すると、この措置は、直接的に意見表明の自由を制約するものではなく、選挙活動の一つの手段である戸別訪問による弊害を防ぐことを目的としています。この弊害とは、たとえば、個人のプライバシーの侵害や、選挙運動における不公平な影響力の行使などが考えられます。

この判決のポイントは、戸別訪問の禁止が意見表明の自由そのものを否定するものではなく、あくまでも意見を表明する「手段」の一つに制限を加えるものであるということです。つまり、戸別訪問を除く他の多くの手段、例えば公開集会、インターネット上での活動、チラシの配布などを通じて、候補者や支持者は依然として自由に意見を表明することができます。

最高裁判所はこの禁止措置を「単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない」と判断しています。これは、戸別訪問という特定の活動方法に関する制約であって、意見表明の自由全体に対する制約ではないという解釈です。つまり、この措置は意見表明の自由を不当に制限するものではなく、選挙運動の公平性を保ち、選挙活動における特定の弊害を防ぐために必要な範囲内での制約とみなされるのです。

このように、最高裁は選挙における戸別訪問の禁止が、選挙の公正を守るために適切な措置であると判断し、この制約が基本的人権の保護と社会の利益のバランスを考慮した結果であることを強調しています。

イ. 芸術作品の性的描写に基づく頒布処罰

要約

目的:公序良俗を保護し、性的羞恥心を害する内容の拡散を防ぐ。

間接的制約:文学作品の頒布を処罰することは、芸術表現の自由に直接的な制約を加えるわけではないが、性的な内容を含む表現に対しては間接的な影響を与える。

芸術的価値のある文学作品に含まれる性描写が公序良俗に反するとして処罰される場合の扱いについて、わかりやすく説明します。

背景

文学作品や芸術作品は、しばしば社会の様々な側面を探求し、挑戦することを目的としています。これには、性に関するタブーを含む、社会の道徳的・倫理的境界を押し広げる内容が含まれることがあります。しかし、これらの表現が一般的な性的羞恥心を害したり、社会の善良な性的道徳観念に反すると判断される場合、その頒布が処罰されることがあります。

判例の意義

昭和32年の判例、通称「チャタレー事件の判決」では、表現の自由や学問の自由が民主主義の基礎であり、重要なものであるが、絶対無制限なものではないとされました。この判決により、芸術的・思想的価値があると認められる文書でも、その内容が猥褻である場合には、公共の福祉や健全な風俗を維持するために処罰することが可能であると定められました。

「間接的、付随的な制約」とは異なる

この文脈での「間接的、付随的な制約」という概念は、主な目的が他にあり、その過程で発生する制約を指します。しかし、性描写による処罰の場合は、その行為そのものが直接的に法の規制対象となっており、間接的や付随的な結果ではありません。つまり、このような処罰は表現の自由に対する直接的な制約とみなされるのです。

結論

芸術的価値を持つとしても、性的描写が社会の性的羞恥心を害すると判断された場合、その頒布が直接的に処罰されることは、表現の自由への間接的、付随的な制約ではなく、明確に定義された法的基準に基づく直接的な制約とされます。このように、表現の自由と公共の福祉との間でバランスを取りながら、社会の健全性を保つための措置が取られることになります。

ウ. 裁判官の政治運動禁止

要約

目的: 裁判の公正性と中立性を保持する。

間接的制約: 裁判官の政治的行動を制限すること自体は、言論の自由への直接的な制約ではないが、裁判官個人の表現の自由を間接的に制約する。

裁判官が積極的に政治運動を行うことの禁止についての最高裁判所の判断をわかりやすく説明します。

背景

裁判官は公正性と中立性を保持する必要があるため、個人としての政治的活動には制限があります。これは、裁判官の行動が裁判所の信頼性や公平性に影響を与える可能性があるからです。

禁止の理由

裁判官による積極的な政治運動の禁止は、意見表明の自由そのものを制限することを目的としているわけではありません。むしろ、そのような活動がもたらす可能性のある弊害、例えば、裁判の公正さへの疑念や裁判所の中立性への損害を防ぐことが目的です。

制約の性質

この禁止による意見表明の自由への制約は、「間接的、付随的な制約」と考えられます。これは、裁判官が政治運動をすることそのものを禁じることによって生じる制約であり、意見表明の自由全体を否定するものではありません。裁判官は、積極的な政治運動を行わない他の方法で意見を表明する自由を持っています。

制約の範囲

この制約は、裁判官が公務としての役割と責任を果たす上で必要な範囲に限定されています。つまり、裁判官が私生活において、または非公式な場で、個人としての意見を持つことは禁じられていないことを意味します。制約はあくまで裁判官としての公の立場における活動に関するものです。

結論

裁判官による積極的な政治運動の禁止は、裁判所の公正性と信頼性を守るための措置であり、裁判官個人の意見表明の自由を全面的に制限するものではなく、間接的、付随的な制約に過ぎません。これは、公務員としての特別な立場と責任を考慮した上での適切なバランスとされています。

エ. 刑事施設における新聞閲読の自由制限

要約

目的: 施設内の秩序維持や安全確保。

間接的制約: 新聞閲読の自由を制限することは、情報へのアクセス権に間接的な影響を及ぼし、被収容者の知る権利を制約する。

刑事施設内での被収容者の新聞閲読の自由に関する制限が、施設の規律や秩序の維持を目的として行われる場合の扱いについて説明します。

目的

刑事施設では、被収容者の新聞閲読の自由が制限されることがありますが、この制限の主な目的は、施設内の規律と秩序を維持することです。つまり、情報の内容が施設内での問題を引き起こす可能性がある場合に、そのような情報へのアクセスを制限するわけです。

制約の性質

この種の制約は、「必要的合理的な範囲においてのみ制限される」という考えに基づいています。これは、制約が施設管理上の必要性から生じるものであり、被収容者が知る権利そのものを否定するものではないことを意味します。制限は、具体的な事情に基づき、規律や秩序の維持にとって実際に必要かつ合理的な場合にのみ適用されます。

「間接的、付随的な制約」との区別

この文脈での制約は、「間接的、付随的な制約」というよりは、施設管理の直接的な要請によるものです。制約は特定の内容や状況に応じて適用され、公共の安全や他の被収容者の権利保護など、具体的な目的を達成するために必要な範囲で行われます。

法的基準

最高裁判所の判断によれば、この種の制約が憲法に違反しないためには、制限が「必要かつ合理的な範囲」内であることが求められます。つまり、施設内の規律や秩序を維持するという明確な目的があり、その目的を達成するためには制限が不可欠であること、そして制限がその目的に対して過度でないことが重要です。

結論

刑事施設の被収容者に対する新聞閲読の自由の制限は、施設の規律や秩序の維持という具体的な必要性に基づくものであり、その制限は合理的で必要な範囲に限定されます。この制約は、被収容者の基本的人権を無視するものではなく、憲法上許容される範囲内で施設の安全と秩序を保つための措置と解釈されます。

結論

最高裁判所は、これらの間接的、付随的な制約が憲法上許容されるかどうかを判断する際、制約の正当性、必要性、比例性を検討します。
制約が社会的公共の福祉に資するもので、最小限に留められている場合には、これらの制約が憲法上許容されることがあります。

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