先に結論を書きます。 「善意の第三者」という同じような言葉でも、条文によって中身が違います。虚偽表示(94条2項)は「善意」だけで第三者が守られ、無過失は条文に書かれていません。一方、錯誤(95条4項)と詐欺(96条3項)は「善意でかつ過失がない」第三者だけが守られます。そして強迫には、第三者を守る規定がありません。
前回は、だまされて土地を売った人と、脅されて売った人の話をしました(詐欺と強迫、第三者が出たら答えが変わる)。今回はそこに二人足します。
- 相手とグルになって、売ったことにしただけの人(虚偽表示)
- 勘違いして売ってしまった人(錯誤)
この4人は、どれも後から「なかったこと」にできます。その土地が、事情を知らない別の人にも売られていたとします。第三者が知らなかったことに落ち度があっても、土地を取り戻せないのは4人のうち1人だけ。どれでしょうか。
虚偽表示(94条)=無効。第三者は「善意」だけで守られる

登場人物は前回と同じです。土地の持ち主Aさん、Aさんから土地を買ったことになっているBさん、Bさんからその土地を買ったCさん。最後にAさんが「あれは無効だ」「取り消します」と言い出します。
まず虚偽表示。民法94条です。
1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
AさんとBさんが口裏を合わせて、売っていないのに売ったことにした、という話です。これは取消しではなく、最初から無効です。
見てほしいのは2項。「善意の第三者」で文が終わっています。前回の詐欺(96条3項)は「善意でかつ過失がない第三者」でした。94条2項には「過失がない」が書いてありません。
だから、Cさんが口裏合わせを知らなかった。でも、ちょっと調べれば分かったよね、という落ち度があった。それでもCさんは守られます。 Aさんは無効をCさんに対抗できません。
錯誤(95条)=取消し。「重要な」勘違いに限る

次に錯誤。95条1項です。
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
押さえるのは二つです。
- 重要なものであること。 どうでもいい勘違いでは取り消せません。
- 取り消すことができる。 虚偽表示は「無効」でしたが、錯誤は「取消し」です。
錯誤は2種類に分かれています。
- 1号=意思表示に対応する意思を欠く錯誤(言い間違いの型)
- 2号=表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(思い込みの型)
2号にだけ条件があります。95条2項で、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り取り消せます。思い込みの型は、言っていないとダメなんです。
そして95条3項が本命です。錯誤が表意者(Aさん)の重大な過失によるものだったときは、原則として取り消せません。ただし、次のどちらかなら、Aさんに重過失があっても取り消せます。
- 1号=相手方が、Aさんの錯誤を知っていたか、重大な過失によって知らなかったとき
- 2号=相手方も、Aさんと同じ錯誤に陥っていたとき
錯誤の第三者は「善意でかつ過失がない」

では、錯誤で売った土地をCさんが買っていたら。95条4項です。
第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
「善意でかつ過失がない」。前回の詐欺とまったく同じ言い方です。錯誤の第三者は、善意だけでは足りず、無過失まで要ります。
4人を並べると、こうなります。
| 効果 | 第三者が守られる条件 | 条文 | |
|---|---|---|---|
| 虚偽表示 | 無効 | 善意(無過失は不要) | 94条2項 |
| 錯誤 | 取消し | 善意でかつ過失がない | 95条4項 |
| 詐欺 | 取消し | 善意でかつ過失がない | 96条3項 |
| 強迫 | 取消し | 守る規定なし(対抗できる) | ― |
冒頭の答えは虚偽表示です。無過失が要らないのは、4つのうち虚偽表示だけです。
確認の3問と、事故らない順番

3問とも、Cさんが買ったのは、Aさんが無効や取消しを言い出す前です。
- 問1 AさんとBさんの虚偽表示。Bさんが転売し、Cさんは口裏合わせを知らなかったが、知らなかったことに過失がある。AさんはCさんに無効を対抗できる? → ×。 94条2項は「善意の第三者」としか書いていない。過失があってもCさんは守られる。
- 問2 錯誤で売った土地。Cさんは事情を知らず、知らなかったことに過失もない。AさんはCさんに取消しを対抗できる? → ×。 95条4項=善意でかつ過失がない第三者には対抗できない。
- 問3 Aさんの錯誤はAさん自身の重大な過失によるものだった。ただし相手方Bさんは、Aさんの勘違いを知っていた。Aさんは取り消せる? → ○。 95条3項1号。相手方が知っていたときは、重過失があっても取り消せる。
問題文に「知らなかった」が出てきたら、先に「どの条文の話か」を決めてください。 決めてから、無過失まで要るのかを見る。逆だと事故ります。
もう一つ。ここでの話は全部、Cさんが無効の主張や取消しより前に買った場合です。後から出てきた第三者は登記が関わり、別の整理になるので混ぜないでください。
私は宅建にはもう受かっていて、今年は受けません。それでも問題は解いていて、解く立場では受験生と同じです。こういう回は、私が過去につまずいたところをそのまま出しています。見終わったら、手元の問題集で1問だけ解き、正解したら理由まで言ってみてください。「知らないから」なのか「知らないし、過失もないから」なのか。この一言が違うと、別の問題になります。
まとめ
- 虚偽表示(94条)は無効。第三者は「善意」だけで守られ、無過失は不要(94条2項)
- 錯誤(95条)は取消し。重要な錯誤に限る。思い込みの型(2号)は表示されていたときに限る(2項)
- 表意者に重大な過失があれば原則取り消せないが、相手方が悪意・重過失か、同じ錯誤なら取り消せる(3項)
- 錯誤と詐欺の第三者は「善意でかつ過失がない」(95条4項・96条3項)
- 強迫には第三者を守る規定がない
- 問題文で「知らなかった」が出たら、まず条文を決めてから無過失の要否を見る
よくある質問
Q. 虚偽表示の第三者は、過失があっても保護されますか? A. 94条2項は「善意の第三者」とだけ定めていて、無過失は書かれていません。過失があっても善意なら保護されます。
Q. 錯誤で取り消せるのはどんな場合ですか? A. 錯誤が法律行為の目的と取引上の社会通念に照らして重要なものであるときです(95条1項)。基礎とした事情の錯誤(2号)は、その事情が表示されていたときに限ります(2項)。
Q. 自分に重大な過失があっても、錯誤で取り消せることはありますか? A. 相手方が錯誤を知っていたか重大な過失で知らなかったとき、または相手方も同じ錯誤に陥っていたときは取り消せます(95条3項1号・2号)。
出典
- 虚偽表示と錯誤、第三者はどこまで守られるか(YouTube)
- 民法94条・95条・96条(e-Gov法令検索で条文を確認)
