弁護士をつけずに、自分で裁判を起こす人が増えている。アメリカで、生成AIが広まってから、という記事を読みました。AIに事情を打ち込めば、訴状らしきものができてしまう時代です。
予備試験の勉強をしていると、民事訴訟法はどうしても条文と判例と手続の流れの暗記になりがちです。でも、このニュースを読んで、民訴は現実の社会とかなりつながっていると思いました。予備試験の受験生として、何を考えるべきかを書きます。
アメリカで、本人訴訟が増えている

もとになったのは、アメリカの連邦裁判所の民事訴訟を分析した研究です。
| 研究で示されたこと | 数字 |
|---|---|
| 弁護士をつけない本人訴訟の割合(連邦の民事・原告) | 生成AIが出る前の11.33% → 16.94% |
| 本人の原告の事件で、最初の180日の記録の件数 | 生成AIが出る前の平均より158%多い(2025年の第2四半期) |
昔なら、法律の文章を書くこと自体が大きな壁でした。今は、AIを使えば訴状や申立書らしい文章が、見た目だけならかなり整った形で作れてしまいます。その結果、裁判所の確認や記録の処理の負担が増えている、と指摘されています。
日本で起きそうなのは、簡易裁判所
日本でもAIで本人訴訟が増える可能性はあると思います。ただ、アメリカとまったく同じ形にはならないとも思います。
地方裁判所の通常の民事訴訟は、もともと多くの事件に弁護士がついています。一方、簡易裁判所は様子が違って、弁護士も司法書士もつけずに本人で進める事件のほうが多数派です。少額訴訟は、ほとんどが本人です。
だから日本で起きそうなのは、本人訴訟が爆発的に生まれることより、もともと本人訴訟の多い簡易裁判所の事件に、AIで作った書面が入ってくることだと考えています。たとえば、こういう事件です。
- 敷金の返還、原状回復の費用
- 未払いの代金、貸したお金の返還
- 家賃や、少額の損害賠償
- 消費者トラブル
どれも事実関係が比較的シンプルで、書面の形もある程度決まっています。いつ契約した、いくら払った、相手が返さない、証拠として契約書・領収書・LINE・メールがある。AIが時系列の表や請求の理由らしきものを作りやすい分野です。
2026年5月21日、民事裁判がオンラインになった
日本では2026年5月21日に、改正された民事訴訟法と民事訴訟規則が全面的に施行されて、民事訴訟の手続がデジタル化されました。
| 変わったこと | 中身 |
|---|---|
| 誰でも | 裁判所のシステムを通じて、オンラインで訴えを起こしたり、書面を出したりできる |
| 弁護士などの代理人 | オンラインでの手続が義務になった |
| 本人だけの訴訟 | 紙の書面も、これまでどおり使える |
これは大きな変化です。AIで訴状を作り、PDFにして、オンラインで出す。この流れが、家にいながらできてしまいます。裁判所へ行き、書式を調べ、印紙や郵券を用意して、紙で出す。昔はそういう物理的な壁がありました。
それ自体は悪いことではありません。たとえば、知り合いに5万円を貸して、期限を過ぎても返してくれないとします。弁護士に頼めば赤字になる金額です。内容証明を送っても返ってこない。泣き寝入りするか、戦うか。AIとオンラインの手続があれば、泣き寝入りしなくて済む人が出てくると思います。司法へのアクセスという意味では、AIはプラスに働くかもしれません。
AIが書けるのは文章で、要件事実ではない

ただし、AIは平気で間違えます。存在しない判例を出すこともあるし、それらしい条文を持ってきたと思ったら、どこの世界の条文ですか、というものもあります。いちばん危ないのは、本人がその誤りに気づきにくいことです。
見た目はきれいなのに、中身が崩れている書面は、たとえばこうです。
- 請求の原因が整理されていない
- 相手の言い分(抗弁)への反論がない
- 主張と証拠が対応していない
- 時効の問題を見落としている
- 管轄が違う
- 請求額の立て方がおかしい
売買代金の請求なのか、貸したお金の返還なのか、不法行為の損害賠償なのか、債務不履行なのか、賃貸借が終わったことによる明渡しなのか。この法的な組み立てを間違えると、どれだけ文章がきれいでも、訴訟では弱いです。
訴訟で必要なのは、文章力だけではありません。権利が発生するための要件にあたる事実があるか。その事実を証拠で証明できるか。相手の反論にどう対応するか。これはまさに、予備試験で勉強している民法・民事訴訟法・要件事実の世界です。
他人の事件でやれば、弁護士法72条の問題になる
もう一つ注意しないといけないのが、弁護士法との関係です。
本人が自分の事件について、AIを使って書面を作る。これは基本的に、本人が自分のためにやっていることです。でも、誰かが他人の事件について報酬をもらって訴状を作る、法的な見通しを示す、勝てる主張を組み立てる、となると、弁護士法72条との関係が問題になります。
法務省も2023年8月に、AIを使った契約書の作成・審査のサービスと弁護士法72条の関係について、考え方を示しています。個別の事案に応じた法的な処理や、具体的な修正案を示すようなものは、法律事務にあたりうる、という考え方です。
これは行政書士や司法書士などの士業にとっても、かなり大事な話です。人間がやってはいけない業務は、AIを使っても、基本的にはやってはいけない。AIは道具であって、業務の法的な性質を変える魔法ではありません。
AIの時代こそ、基礎が効く
このニュースから、予備試験の受験生として学べることは二つあると思っています。
- 民事訴訟法は、ただの手続の暗記科目ではない。訴えの提起、請求の趣旨と原因、口頭弁論、争点の整理、証拠調べ、判決。どれも、現実に人の権利を実現するための仕組みです
- AIの時代ほど、基礎が大事になる。AIが文章を大量に作るからこそ、その文章が法的に意味を持つのか、要件事実に沿っているのか、証拠と対応しているのか、手続として正しいのかを見抜く力が要ります
AIが文章を書いてくれるなら、法律家に文章力は要らなくなるのか。私は逆だと思っています。その見抜く力こそ、予備試験の勉強で鍛える力です。
この話を動画で見る
もとにした動画:「AIは訴状を書ける。でも要件事実はわかっていないだろう」(YouTube・2026年6月2日)。アメリカの研究の数字と、民事裁判のオンライン化は、記事を書く時点(2026年10月)で出どころを確かめたものです。
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