先に結論を書きます。 国家賠償法の1条は人(公務員)がやったこと、2条は物(道路・河川などの公の営造物)の状態です。1条には「故意又は過失」が書いてあり、役所に落ち度があったかを問います。2条にはその言葉が1文字もありません。そして、国が公務員本人に求償できるのは「故意又は重大な過失」があったときだけ(1条2項)。これだけです。
いきなり二つ出します。
- 市役所の窓口の職員が間違ったことを説明し、それを信じたせいで損をした
- 市の道路に大きな穴があいていて、そこにバイクが突っ込んで転んだ
どちらが1条で、どちらが2条でしょうか。そして「役所に落ち度があったか」を聞かれるのは、どちらでしょうか。すぐに出なかった方は、この記事の内容です。
国家賠償法は、6条しかありません

私はこの二つを、ずっと「なんとなく」で解いていました。その結果、春のセルフチェックで行政法は14問中6問。なんとなくは危ないです。
まず知っておいてほしいのは、国家賠償法は6条しかないということです。附則を入れても、ページにして1枚ちょっと。本試験で聞かれるのは、ほとんど1条と2条です。
| 条 | 中身 |
|---|---|
| 1条 | 人がやったこと。公務員が違法なことをして損害が出た |
| 2条 | 物の状態。道路や河川などが危ない状態だった |
| 3条 | 管理する人と費用を出す人が違うとき、費用を負担する側も賠償する |
| 4条 | 1〜3条のほかは、民法による |
| 5条 | 民法以外の法律に別の定めがあれば、そちらによる |
| 6条 | 外国人が被害者のときは、相互の保証があるときに限り適用 |
私が「15問の壁」の手前で何年も止まっていた理由の一つは、こういう6条しかない法律を、6条のまま覚えていなかったことだと思っています。
1条=「人」。故意又は過失がいる

1条1項を、条文のまま読みます。
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
長いですが、切れ目は五つです。
- 公権力の行使に当たる
- 公務員が
- その職務を行うについて
- 故意又は過失によって
- 違法に
いちばん見てほしいのは4番目です。1条には「故意又は過失」と書いてある。つまり1条は、役所に落ち度があったかどうかを聞くのです。
もう一つ、1条2項。
前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
1項は「故意又は過失」。2項は「故意又は重大な過失」。同じ条文の中で言葉が変わっています。多肢選択で出ると焦るところで、実際に出たことがあります。
2条=「物」。故意・過失の言葉が1文字もない

2条1項も読みます。
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
キーワードは三つ。公の営造物、設置又は管理、瑕疵。
もう一度、2条を頭から読んでみてください。「故意又は過失」という言葉が1個も出てきません。 1条にあった言葉が、2条には1文字もない。これが1条と2条を分ける、いちばん太い線です。
判例も同じことを言っています。営造物の設置・管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国・公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としない。高知の国道で落石が起きた事件(最高裁昭和45年8月20日)です。
この事件で道路管理者がしていたのは、落石注意の札を立てたことだけ。防護柵も金網も点検もしていませんでした。それで管理に瑕疵があったとされています。県は「柵を作るには費用がかかりすぎる」と主張しましたが、判決は、予算の措置に困ることは推察できても、それで賠償責任を免れるとは考えられない、としています。
ちなみに民法717条(土地の工作物の責任)には、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときのただし書があります。国家賠償法2条には、そのただし書がありません。
2条でも、何でも責任になるわけではない

ここまで聞くと「道路で事故が起きたら全部役所のせいか」と思いますが、そうはなりません。
- 工事の標識とバリケードが道路上に倒れていて、車が転落し人が亡くなった事件。倒したのは役所ではなく、直前に走っていた別の車で、しかも夜でした。判決は、道路の安全性に欠如があったことは認めつつ、時間的に遅滞なく原状に復し、道路を安全良好な状態に保つことは不可能だったとして、管理の瑕疵はなかったとしています(最高裁昭和50年6月26日)。
- 中学校の校庭にあったテニスの審判台に5歳の子が登り、後ろから降りようとして倒れて亡くなった事件。これも設置管理者の責任はないとされています(最高裁平成5年3月30日)。
2条は過失がいらない。でも何でも責任が発生するわけではありません。直す時間があったのか。本来の使い方だったのか。 そこを見ます。
最後に3条を一行だけ。管理している者と費用を負担している者が違うときは、費用を負担している側も一緒に賠償する。高知の落石事件では、道路を管理していたのは県ですが、国も一緒に被告になっています。これが3条です。択一で1問持っていかれるところだと思います。
確認の3問
- 問1 国家賠償法2条の責任が認められるには、営造物を管理していた公務員に故意又は過失が必要? → ×。 2条に故意又は過失の言葉はなく、判例も過失の存在を必要としないとしている。
- 問2 1条で国が賠償した後、国が公務員本人に求償できるのは、その公務員に故意又は重大な過失があったときに限られる? → ○。 1条2項。
- 問3 直前の別の車が倒した標識のせいで事故が起き、道路管理者に元に戻す時間がなかった。道路の安全性が欠けていた以上、管理の瑕疵は必ず認められる? → ×。 昭和50年の判例。安全性の欠如は認めたうえで、元に戻す時間がなかったとして瑕疵を否定。
冒頭の二つ、覚えていますか。窓口の職員の間違った説明が1条、市道の穴が2条。役所に落ち度があったかを聞かれるのは1条です。
6条しかないので、読むだけなら3分もかかりません。手元の条文で1条と2条だけ開いて、2条に「故意又は過失」が本当にないか、自分の目で確かめてみてください。
まとめ
- 国家賠償法は6条だけ。本試験はほぼ1条と2条
- 1条=人(公務員)。「故意又は過失」がいる=役所の落ち度を問う
- 1条2項の求償は「故意又は重大な過失」のときだけ
- 2条=物(公の営造物)。「故意又は過失」の言葉がない。判例も過失不要(最高裁昭和45年8月20日)
- ただし2条でも、元に戻す時間がなかった場合や、本来の使い方でなかった場合には責任が否定された判例がある
- 3条=費用を負担する者も賠償する
よくある質問
Q. 国家賠償法1条と2条は、どう見分けますか? A. 人(公務員)がやったことなら1条、物(道路・河川などの公の営造物)の状態なら2条です。1条には「故意又は過失」があり、2条にはありません。
Q. 国家賠償法2条の責任に、過失は必要ですか? A. 条文に「故意又は過失」の言葉はなく、判例(最高裁昭和45年8月20日)も過失の存在を必要としないとしています。
Q. 国が公務員に求償できるのはどんなときですか? A. 1条2項で、公務員に故意又は重大な過失があったときとされています。1項の「故意又は過失」と言葉が違うので注意です。
出典
- 国家賠償法、1条と2条を混ぜない(YouTube)
- 国家賠償法 1条〜6条、民法717条(e-Gov法令検索で条文を確認)
