勉強の合間に動画を流していると、「行政書士はやめとけ」「行政書士は無意味」という題が出てきます。受験生が見ると、まあまあ刺さります。わざわざ検索して見に行ってしまう人もいると思います。
私は行政書士になって数か月の新人です。そういう動画も見たうえで書きます。先に言っておくと、言われていることの多くは当たっていると思います。ただ、1つだけ事実と違うところがあります。そこを条文で確かめます。
当たっている批判

よく言われるのは、食えない、独占業務が弱い、知名度がない、試験と実務が合わない、といったことです。実際に登録して研修にも出て、1年もたたずに見切りをつけた人の話もあります。現場を見た人の話なので、いちばん重いと思います。感情で言い返しても勝てません。
まず、当たっているものを認めます。
| 言われていること | 本当か | 根拠 |
|---|---|---|
| 相手方と交渉できない | 本当 | 弁護士法72条。行政書士法1条の4も、弁護士法72条の法律事件に関する法律事務を除いている |
| 相続や会社設立の登記を代理できない | 本当 | 登記の代理は司法書士の仕事(司法書士法3条1項1号・73条) |
| 相談に乗るだけなら資格はいらない | 本当 | 行政書士にしかできないのは書類を作ること。相談や代理は、そこに入っていない |
相続の相談に行ったら「登記はご自分で」と言われた。頼む側からすれば一括でお願いしたいので、不便なのは事実です。
「独占業務がない」だけは、条文と違う

「行政書士には独占業務がない。その辺の代行業者と変わらない」。ここだけは違います。条文を読みます。
| 条文(行政書士法) | 書いてあること |
|---|---|
| 1条の3 | 頼まれて報酬をもらい、役所に出す書類や、権利義務・事実証明に関する書類を作るのが行政書士の仕事 |
| 19条1項 | 行政書士・行政書士法人でない人は、頼まれて、どんな名目でも報酬をもらって、この仕事を業としてやってはいけない |
| 21条の2 | 19条1項に違反したら、1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金 |
| 19条の2・22条の4 | 行政書士でない人が「行政書士」やまぎらわしい名前を使ったら、100万円以下の罰金 |
| 23条の3 | 会社の従業員などが仕事として違反したら、その会社にも罰金 |
刑事罰がついている以上、「独占がない」とは言えません。なお、自分の書類を自分で書く(本人申請)のは自由です。
しかも、ここは締まってきています。2026年1月1日に施行された改正で、19条1項に「いかなる名目によるかを問わず」が書き足されました。「報酬ではなく会費です」と言っても通らない、ということです。会社にも罰金がかかる決まり(23条の3)も、このとき21条の2の違反まで広がりました。
例外はあります。19条1項のただし書きで、ほかの法律に定めがある場合と、自動車の登録などの決まった手続を、省令で決めた団体が電子データで作る場合です。その団体は、日本自動車販売協会連合会・全国軽自動車協会連合会・日本自動車整備振興会連合会の3つに限られています(施行規則20条)。穴はほとんどありません。
ただ、独占があるから食えるわけではない

ここからは、批判している人のほうが現実を見ていると思います。
独占されているのは、書類を作ることだけです。役所への手続の代理も相談も1条の4に書いてありますが、独占ではありません。そして、参入を制限していることは、仕事があることの保証ではありません。
私は開業して3か月、売上も問い合わせもゼロでした。「今日も電話は鳴りません」という動画を出したこともあります。あの3か月に限っていえば、「無意味」に言い返せる材料はひとつもありませんでした。合格証書は、飾っているだけならただの紙です。資格は、取っただけでは仕事になりません。そこは私も同意します。
懇親会の人数では、食えるかどうかは分からない

私がいちばん引っかかったのは、「仕事をしている人がいない」と判断した場所でした。研修会や懇親会、勉強会です。20人集まって、実際に受任しているのは1人か2人だった、という話です。
それはそうだと思います。平日の夕方に懇親会へ出られるのは、どんな人でしょうか。仕事が詰まっている人は来られません。私も、お客様の予定が入っていれば行きません。懇親会に来る人を数えても、この仕事で食えるかどうかは分かりません。
この短い期間で、私はいろいろな行政書士の方と知り合いました。具体的な数字は言えませんが、専門でやっている人の中には、驚くほど稼いでいる人がいます。沖縄にもいます。「行政書士は食えない」と一律に言うのは、違うと思います。食えていないのは、兼業で始めたばかりの私のほうです。
「組み合わせならあり」の実例が、私です

実は、やめとけと言っている人も、全部を否定してはいません。宅建士など相性のいい資格を持っていて、それを生かすために行政書士を取るならあり、と条件を出しています。
それは私のことです。宅建士の資格があり、不動産の仕事をしていて、そこに行政書士を足しました。相続の相談が来れば、土地の話と手続の話を同じ人が受けられます。だから私は、あの主張に反対しているのではありません。あの人が出した条件の実例です。
「行政書士は書類を作るだけ」という指摘も、今のところはその通りです。ただ、特定行政書士という仕組みがあります。日本行政書士会連合会の研修の課程を修了した行政書士は、許認可についての審査請求などの不服申立てを代理できます(1条の4第1項2号・2項)。許可が下りなかった、処分に納得がいかない、というときに、代理して争えます。私も、その研修を受けています。批判に答えるいちばんいい方法は、言い返すことではなく、当てはまらなくなることだと思っています。
「予備試験の前に、まず行政書士」という順番はない

「無意味」という話をしている人の多くは、予備試験や司法試験の周りにいる人です。見てほしい相手も、法曹になりたいのに「まず何か資格を」と迷っている人。その人に「回り道をするな」と言っているのだと思います。宛名の違う手紙です。表に「行政書士」と大きく書いてあるので、行政書士の受験生が開けてしまうだけです。
逆の向きもあります。私が「予備試験を目指します」という動画を出したとき、「行政書士にも受かっていないのに、予備試験なんか目指すな」というコメントをいくつかもらいました。でも、予備試験には受験資格の決まりがありません。行政書士の合格証を見せないと受けられない、という仕組みではないのです。行政書士試験で勉強した憲法・行政法・民法が予備試験で役に立つことはあっても、それは「先に受からないといけない」ということではありません。
行政書士になりたい人が行政書士試験を受ける。法曹になりたい人が予備試験を受ける。それだけの話です。
気にしたほうがいいのは、家族と自分の時間

外の声は気にしなくていいと思います。コメントを書いた人の負担は、書いた数十秒で終わります。こちらがそれを真に受けて1年を棒に振っても、返してはくれません。
気にしたほうがいいのは、2つです。
1つは「今年こそ」です。私は受かった年の試験の直後、「受験生を引退します」という動画を出しました。落ちていたら行政書士を捨てて、予備試験に行くつもりでした。でも実際に落ちていたら、春ごろには「今年だけもう一回」と言い出していたと思います。あと少しだったんだから、という気持ちは、受験生のお金と時間を長く縛ります。
もう1つは家族です。1日は24時間で、勉強の時間はどこかから持ってくるしかありません。家庭のある社会人の勉強時間は、自分だけの財布ではなく、家族との共有の口座から出ています。相談なしに毎日引き出し続ければ、いつか信頼が足りなくなります。走り始める前に、次の3つは決めておいたほうがいいと思います。
- 家族の理解を得られているか
- 子どもとの時間を、どこまで削るか
- いつまで挑戦して、どこでやめるか
やめとけと言われて迷っている人がいたら、やめる前に、何と組み合わせられるかを考えてみてください。行政書士になりたい理由があるなら、まっすぐ目指していいと思います。少なくとも私にとって、行政書士は無意味ではありませんでした。
この話を動画で見る
もとにした動画:「「行政書士はやめとけ」に条文で答えます。批判はほぼ当たっている。でも1個だけ事実が違う」(YouTube・2026年9月2日)と「行政書士受験生へ。「行政書士は無意味」という動画は、あなた宛ではありません」(YouTube・2026年8月24日)。条文は2026年10月時点のものです。
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